水分子の生命科学・医学研究
センター

センター長 : 安井 正人(医学部教授)
活動拠点キャンパス : 信濃町

センター概要

我々は「Water Biology(水分子の生物学)」という斬新な概念を提唱し、生命現象を水分子動態から包括的に理解しようとしている。本センターは、「水」という共通テーマに対して、物理化学、生物学、医学の最先端の知識、技術を融合することで、生体における水分子動態の物理化学的理解を深め、生物学・医学的への応用を目指している。

キーワード・主な研究テーマ

水分子、アクアポリン、MRI、多光子顕微鏡、近赤外分光、分子動力学計算

2019年度 事業計画

■2018年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

  1. 水を観るプロジェクト:
    モルモット膵管二重還流をCARS顕微鏡で観測し、前年度に引き続き、経細胞水移動と細胞間水移動を定量的に解析することを試みる。経上皮水の移動の定量化を目標とする。脳実質内における水動態の観測を進める。浸透圧負荷がかかった時の変化も検討する。
  2. 水を知るプロジェクト:
    シミュレーションモデルを用いて生体内における水動態の統合的理解を目指す。昨年度に完成されていたモデルの精度向上と実用化を試みる。すなわち、水負荷や塩負荷時の変動を変動を予測する。開放系における検討も進める。
  3. 水を操るプロジェクト:
    (1)AQP4の制御機構と脳のリンパ流の生理と病理の解明を目指す。
    具体的には、1)マウスの発達・加齢によるAQP4の発現・局在の変化を捉える、2)AQP4欠損マウスを用いて、脳実質の拡散や対流の変化を観測する、3)AQP4欠損マウスをアルツハイマーモデルと掛け合わすことで、アルツハイマー病病理におけるAQP4の役割を解明する。脳リンパ流と神経変性疾患の関連に関しては、現在神経科学における最もホットな話題であり、その一端を解明することは、大変意義がある。

■2019年度の新規活動目標と内容、実施の背景

  1. 水を操るプロジェクト: (1)老化に伴うAQP2の制御機構の変化とそのメカニズムの解明を目指す。
    具体的には、1)マウスの発達・加齢によるAQP2の発現・局在、バソプレッシンによる反応性の変化を検討する、2)慢性的な水負荷時における、AQP2の発現・局在への影響を検討する。AQP2は哺乳類における生体水バランスの最も重要なアクアポリンである。今回はライフサイクルという時間軸でその変化を解析していく。
  1. 水を知るプロジェクト:
    皮下の水動態の変化から血糖値を予測する数理モデルの開発を行う。

2018年度 事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

  1. 水を観るプロジェクト:
    モルモット膵管二重還流をCARS顕微鏡で観測し、経細胞水移動と細胞間水移動を定量的に解析することを試みた。試行錯誤を重ねる中で、膵管二重還流はほぼ問題なく行うことができるようになった。更に、管腔内の水のCARSシグナルを得ることにも成功した。最終目的である細胞間や脳実質内の水の移動やを観察するためには、より高倍率の対物レンズを用いてCARSシグナルの最適化を進めていく必要がある。
  2. 水を知るプロジェクト:
    (1)排卵日予測に向けた、月経周期における女性ホルモン変動と皮膚の近赤外光スペクトルの相関関係解析:月経周期と年齢の相関を調べ、かつホルモンデータから排卵日を特定することで、黄体期の長さに年齢依存性がある可能性を示した。また、角質水分量と経皮蒸散量の変化の方向が同じ期間と異なる期間が存在し、差分を見ることで、皮膚の状態が安定したコンディションの時期を見いだすことができた。さらに被験者を増やし、検証を進めていく必要がある。(2)シミュレーションモデルをもちいた生体内での水動態の統合的理解:昨年度末に完成されていたWhole Body Water dynamics simulation program ver.5 (WBW5)に、i)心拍出系への拍動流の導入 (WBW6)、ii)大動脈および大静脈のマルチセグメント化(WBW7)を行った。その結果、大動脈内圧については、拍動およびセグメントに沿った最大血圧ピークの遅れと拍動圧の低下を再現するのに成功した。また、大静脈内圧については、微小な拍動圧を伴った軽度の陰圧の再現に成功した。水の出入りを加味した開放系における動態解析も試みる。
  3. 水を操るプロジェクト:
    AQP4は哺乳類の脳に発現しているアクアポリンで、最近特に脳のリンパ排泄のメカニズムとの関連が注目されている。さらにはアルツハイマー病の病態生理における役割も明らかになりつつある。そこで、本プロジェクトでは、AQP4の調節分子機構に関する検討を行う。また、トランスジェニックマウスモデルを用いてAQP4とアルツハイマー病との関連を明らかにする。

公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

主な出版論文数:6件 
主たる公刊誌名:Biochem. Biophys. Res. Commun., iScience, Sci Rep and Elife

  1. Nuriya M, Yasui D, Yamada T, Aoki T and Yasui M. Direct posttranslational modification of astrocytic connexin 43 proteins by the general anesthetic propofol in the cerebral cortex. Biochem. Biophys. Res. Commun., 497(2): 734-741. (2018)
  2. Glady A, Tanaka M, Moniaga CS, Yasui M and Hara-Chikuma M. Involvement of NADPH oxidase 1 in UVB-induced cell signaling and cytotoxicity in human keratinocytes. Biochem. Biophys. Rep., 14: 7-15. (2018)
  3. Nuriya M, Mizuguchi T and Yasui M. High-resolution plasma membrane-selective imaging by second harmonic generation. iScience, 9: 359-66. (2018)
  4. Obata T, Kershaw J, Tachibana Y, Miyauchi T, Abe Y, Shibata S, Kawaguchi H, Ikoma Y, Takuwa H, Aoki I and Yasui M. A quantitative measurement of the permeability of expression- controlled Aquaporin-4 cells with diffusion-weighted MRI. Sci Rep., 8 (1): 17954. (2018)
  5. Tanaka S, Koijc D, Tsenkova R and Yasui M. Quantification of anomeric structural changes of glucose solution using near-infrared spectra. Carbohydr. Res., 463: 40-6. (2018)
  6. Mestre H, Hablitz LM, Xavier AL, Feng W, Zou W, Pu T, Monai H, Murlidharan G, Castellanos Rivera RM, Simon MJ, Pike MM, Plá V, Du T, Kress BT, Wang X, Plog BA, Thrane AS, Lundgaard I, Abe Y, Yasui M, Thomas JH, Xiao M, Hirase H, Asokan A, Iliff JJ, Nedergaard M. Aquaporin-4-dependent glymphatic solute transport in the rodent brain. Elife, 18;7. (2018)

学会発表件数(国内・国際) : 3件(うち国内2件、国際3件)

  1. Keio-Cologne Symposium on Aging & Longevity(2/4-2/6 in Cologne)
  2. The 30th Rinsho MR Nou-kinou Kenkyukai (4/7 in Tokyo)
  3. The 18th World Congress of Basic and Clinical Pharmacology(7/6 in Kyoto)
  4. The 30th The Japanese Society for Neuroimmunolgy (9/20 in Koriyama)
  5. Keio University Medical Conference in the Japanese Embassy in Berlin (10/15 in Berlin)

センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

脳実質における水動態の可視化が可能となった。AQP4とアルツハイマー病との関連を検討するためのモデルマウスの開発に成功した。

所員

所員(兼担)

安井正人 医学部(薬理学) 教授
天谷雅行 医学部(皮膚科学) 教授
坪田一男 医学部(眼科学) 教授
中村雅也 医学部(整形外科学 ) 教授
陣崎雅弘 医学部(放射線科学(診断)) 教授
岡村智教 医学部(衛生学公衆衛生学 ) 教授(有期・医学部) 
相馬義郎 医学部(薬理学 ) 医学部客員教授
塗谷睦生 医学部(薬理学 ) 専任講師 
阿部陽一郎 医学部(薬理学 ) 専任講師(学部内)
竹馬真理子 医学部(薬理学 ) 専任講師(学部内)
コイッチ,デュサン 医学部(薬理学 ) 特任講師(有期)(研究/教育) 
田中冴 医学部(薬理学 ) 助教
石川智愛 医学部(薬理学 ) 助教
ツェンコヴァ,ルミアナ 医学部(薬理学 ) 医学部客員教授 
芦刈俊彦 医学部(薬理学 ) 医学部客員准教授 
佐藤洋平 理工学部 SD工学科  教授 
泰岡顕治 理工学部 機械工学科  教授 

所員

田中愛美 先導研究センター 研究員
中村友美 先導研究センター 共同研究員
水間桂子 先導研究センター 共同研究員
矢野伸二郎 先導研究センター 共同研究員

訪問学者

加納英明 先導研究センター 訪問准教授