革新的燃焼技術研究センター

センター長 : 植田 利久(理工学部教授)
活動拠点キャンパス : 矢上

センター概要

本先導研究センター内「革新的燃焼技術研究センター」は、エンジン熱効率向上のための革新的な燃焼要素技術の創出を目的として、関連する慶應義塾内および外部の各機関の専門研究者間における密接な連携ネットワークを構築し、その研究、技術開発を迅速かつ円滑に実施するための研究拠点を形成するものである。

研究開発の対象は「高効率ガソリンエンジンのためのスーパーリーンバーン研究開発」であり、熱効率の飛躍的な向上に繋がるとされるスーパーリーンバーンを実現するための超希薄予混合気の着火および急速燃焼技術、熱効率低下の主要因の一つである冷却損失の低減技術、およびノッキング発生を回避するための燃料および燃料の素反応数値解析を重点項目設定する。

具体的には、空気過剰率λ=2.0という希薄燃焼な低温燃焼を実現する安定着火システムの開発、20~50m/sレベルの強タンブル流動の解析と最適化、火炎伝播現象の解明に基づく希薄燃焼促進技術の確立、壁面熱伝達機構の解明・モデル化をもとにした熱伝達低減技術の最適化、ノッキング発生条件およびメカニズムの解明に基づくその抑制技術の策定、各種要素技術の開発研究を有機的、相補的に進め、最終の2018年度にはエンジンの正味熱効率を50%まで向上させることを目指す。

キーワード・主な研究テーマ

内燃機関、自動車、燃焼技術、高効率化、CO2削減

現状の自動車用ガソリン機関の最高正味熱効率39%を50%に引き上げるためのスーパーリーンバーン技術を核とする以下の基盤技術を開発研究テーマとする。

  • 超希薄・高流動条件下で着火可能な点火システムの開発
  • タンブル流の最適化による火炎伝播の促進研究
  • 壁面熱伝達機構の解明に基づく冷却損失低減研究
  • 化学反応論的アプローチによるノッキング制御コンセプトの創出

2018年度 事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

従来のエンジン燃焼では、熱損失が大きく熱効率は41%程度に留まっていたが、今回、新着火方式(高流動、放電経路伸長、火炎放電着火)や新燃焼方式(Thin Reaction Zone燃焼)を導入することにより、従来よりも低温で燃焼する技術開発に成功し、2017年度には正味熱効率47.1%を達成した。この熱効率はSIエンジンとしては世界でトップクラスの値である。

2018年度は、圧縮比、EGR率、S/B比の変更(ロングストローク化)による高流動化(高タンブル化)と強力点火装置にて実現される低温燃焼をλ=2.0超にチャレンジして、徹底的な熱損失低減により正味熱効率50%を達成する。

この数値が達成されれば、EV自動車よりCO2排出が少ない内燃機関の自動車が実現され、温暖化効果ガスの削減に寄与する。当該研究センターの区切りの年としたい。

■2018年度の新規活動目標と内容、実施の背景

2018年度は当センターの最終年度であり、当センターの最終目標として掲げたエンジン正味熱効率50%を実現する。

具体的には次の研究開発を行い、世界で未踏の図示熱効率52%、正味熱効率50%を達成する。

  1. スーパリーンバーンの進化(超強力点火装置の設計・導入) ⇒ 低温燃焼の限界を追求
  2. サイクル間の流動方向揺らき対策を施した点火プラグの開発(接地電極の改良:特許出願の手続き中) ⇒ 燃焼変動の削減
  3. ビストン表面にマイクボルテックスジェネレータμVGを装着/水噴射 ⇒ 冷損低減+ノック改善
  4. 予混合気の圧縮自己着火に至る過程におけるNTC期間においてスパイク印加 ⇒ ノック改善
  5. 燃料研究の強化 ⇒ノック改善+リーン急速燃焼

なお、過給、排熱回収、フリクション低減に係る開発研究は、内閣府SIP「革新的燃焼技術」の損失低減チームとの連携を図りつつ推進する。

2018年度 事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

2015年度までのエンジン試験にて、強力点火・高流動の利用によってリーン限界をλ=1.89まで拡大、また図示熱効率(電動スーパーチャージャー利用分を含む)を47.6 %にまで高めることができた。その際に使用していた初期設計型のメタルエンジンでは、高熱効率を得るにはバルブ作用角(開時間)若干大きいのではないかという可能性も各データから読み取れた。そこで2016年度には、排気バルブの作用角(開時間)を最適化したバルブタイミングカムを設計、熱効率向上を探求した。その結果、リーン燃焼限界がλ=1.93まで拡大し、図示熱効率48.5%を達成した。
2017年度は、レシプロ型エンジンの基本パラメータである圧縮比εを13から15に高めるとともに、ボア・ストローク比B/Sの値を15から17に高めてロングストーク化することで、タンブル流動の強化および熱損失の低減を図った。その結果、図示熱効率50.1%を達成した。SIP研究で報告された損失低減チームによる過給機の効率向上0.63ptおよび摩擦損失低減1.11ptの成果を加味すると正味熱効率の推定値は47.1%に相当する。この値は当研究センターが2017年度の達成目標値とした正味熱効率46.1%を1ボイント上まわる値である。
2018年度は、過去の研究成果を統合して,①燃焼コンセプト:「超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)」コンセプトを構築した。②課題:超希薄燃焼の課題は,従来の点火技術だと着火しにくい。大きな放電エネルギーを与えて部分的に着火させても、火炎が伝播するときと消炎し伝播しないときの変動が大きく、燃焼が安定しないことであった。③ 実施内容と成果:超希薄燃焼場に強力なタンブル流(縦渦)を導入した、高乱流・希薄燃焼の現象を解明。その結果に基づき、安定着火を可能とする点火技術を開発。これにより、エネルギー損失の低い低温燃焼となる超希薄燃焼を実現し、最終目標である正味熱効率50%の実証に成功した。
今後数十年間は主流と予測されている内燃機関搭載の自動車による環境負荷を低減し、世界の二酸化炭素排出量の削減に貢献する成果として期待される。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

公刊論文0件、学会発表4件、および学会誌投稿1件。内訳は次の通り。

  • 学会発表(国内)1件発表済(2018年11月14-16日@大阪・燃焼シンポジウム)
  • 学会発表(国際)3件発表済(2018年7月10-13日@ポルトガル・19th International Symposium on the Application of Laser and Imaging Techniques to Fluid Mechanics、2018年8月10-15日@中国
  • 16th International Heat Transfer Confrence、2018年9月9-13日@オーストリア
  • 12th European Fluid Mechanics Conference)
  • 学会投稿(国内)1件(International Journal of Engine Research)

対外的なイベントとして、本研究について社会への情報発信を行った。

  • 2018年8月20-23日@天津
    The International Summit on Breakout Technologies of Engine and Fuel (ISEF2018)にて招待講演を行った
  • 2018年10月25日@東京工業大学
    陸内協主催:第18回技術フォーラム2018にて、特別講演を行い、SIPガソリン燃焼チームの研究開発の最先端を紹介

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

  1. 2018年度に正味熱効率の最終達成目標50%を達成した。
  2. 単気筒メタルエンジンの燃焼室壁面への瞬時熱流束計測を行い、スーパーリーンバーン燃焼時における熱損失の低減効果を初めて明らかにした。
  3. スーパーリーンバーンエンジンの燃焼室内を対象に 「OHラジカルのLIF計測」に成功し,超希薄燃焼の火炎構造を明らかにした。燃焼モデルの高精度化に寄与した。
  4. 冷却損失低減要素技術の実証をおこなう目的で、共用SIP可視化エンジンによる水噴射とμVGの燃焼室壁面の鏡面化有効性を実証した。
  5. 燃焼のサイクル毎変動を減少させて、安定化するための技術として傘型電極点火プラグを考案、特許を出願した。

所員

所員(兼担)

植田利久 理工学部 機械工学科 教授
大森浩充 理工学部 SD工学科 教授
深潟康二 理工学部 機械工学科 教授
横森剛 理工学部 機械工学科 准教授
飯田訓正 大学院理工学研究科 特任教授

所員

浦田泰弘 先導研究センター 共同研究員
小畠健 先導研究センター 共同研究員
中田浩一 先導研究センター 共同研究員
松浦勝也 先導研究センター 共同研究員
横尾望 先導研究センター 共同研究員